プログラム

レジリエント社会とは

レジリエンス(resilience)とは
一般的に「弾力。復元力。また、病気などからの回復力。強靭さ。(デジタル大辞泉[小学館])」という意味を持ち、近年では心理学的に「困難で脅威を与える状況にもかかわらず、うまく適応する過程や能力」のことを指して使われることが多い言葉です。さらに、レジリエンスの概念は、企業や行政などの組織、社会・経済現象、防災・減災などにおいて備えておくべき能力として重要視されています。
本プログラムでのレジリエンスの定義
本プログラムでは、レジリエンスを「システム・企業・個人が極度の状況変化に直面したとき、基本的な目的と健全性を維持する能力(「Resilience」Andrew Zolli and Ann Marie Healy [2013])」[1]と定義し、レジリエント社会を「極度の状況変化に直面したとき、基本的な目的と健全性を維持できる社会」とします。
レジリエント社会とは
レジリエント社会は、以下の3種類の状態を実現することができると考えられます。
図表1
発災によって受けたダメージから以前と同じ状態へ戻すというよりも、「生活空間が地震・津波の高いリスクに晒されていたことが明らかとなった以上、以前よりも良い形での再生(『復興的創造について』浜口伸明[2013])」[2]を目指し、「新たな地域の歴史を作る営み(『大災害の経済学』林敏彦[2011])」[3]を促すこと、すなわち「創造的復興」の考え方が未来のレジリエント社会の実現には必要不可欠となります。
図表2
出典
[1] Resilience: Why Things Bounce Back, Andrew Zolli and Ann M. Healy, Free Press, 2013
[2] 復興的創造について, 浜⼝伸明, 国民経済雑誌 207 (4), 35-46, 2013
[3] ⼤災害の経済学, 林敏彦, PHP研究所, 2011

レジリエント社会を目指した
事業創出プロセス

レジリエント社会の構築を牽引する人材とは
本プログラムでは、Andrew Zolli とAnn Marie Healy のレジリエンスの定義と創造的復興の考え方を基に、レジリエント社会の構築を牽引する人材を「社会システムの脆弱性を読み解き、災害による変化を予測して、創造的価値を生む事業を創出・持続する人」と定義します。
事業創出のプロセス
災害に対するレジリエント社会を目指した事業創出のプロセスを下図に示しています。ここでは、極度の状況変化に直面したときに、基本的な目的と健全性を維持することのできる社会を「レジリエント社会」、地震や豪雨などを「極度の状況変化」、地震や豪雨などによってダメージを受けた社会を「極度の状況変化による影響を受けた社会」と呼ぶことにします。レジリエント社会の実現に向けた事業創出プロセスで特徴的なのは、レジリエント社会を描きながら、その一方で、極度の状況変化による影響を受けた社会を予測することです。そして、この2つの社会を比較してギャップ(問題)を探索します。また、現在の社会と極度の状況変化による影響を受けた社会を比較することで、社会の脆弱性(原因)を読み解きます。問題と原因からレジリエント社会を実現するために取り組むべき課題を設定し、その課題の解決策を立案して、事業化へ進んでいきます。このプロセスは、1つずつ順番通りに進んでいくわけではなく、行ったり来たり、右往左往しながら(英語ではiterationという)、進んでいきます。
図表1

レジリエント社会の構築を
牽引する
力について

本プログラムでは、アントレプレナーの基本的スキル・能力と共に次の5つの能力を身につけることで、レジリエント社会に資する新規事業を設計・実装することができると考えています。
1. 極度の状況変化による影響を予測する 現在の状況を理解するだけなく、未来に起こるであろう災害によってどのように社会が変化するかを過去の事例とコンピュータシミュレーションから予測することができるか。
2. 社会システムの脆弱性を見つける 現在の社会と極度の状況変化による影響を受けた社会を比較し、社会をシステムとして捉えることで、その影響の原因を特定することができるか。また、その原因が社会システムの背景(政治、法律、経済、文化など)の影響を受けることを理解しているか。
3. 問題を設定する レジリエント社会と極度の状況変化による影響を受けた社会を比較し、そのギャップを捉えることができるか。
4. 課題・解決策を設定する
―自助・共助・公助の視点から―
民間企業だけではなく、個人の力、地域社会あるいは自治体・国の力を活用することで、実現可能性と持続可能性を持ち合わせた復興や防災・減災に資する事業のアイデアを出すことができるか。
5. 社会的価値と経済的価値を両立する事業を立案する 復興、防災・減災にかかる価値(社会的価値)を提供すると同時に、経済的価値を生むことで、持続可能性の高い事業を立案できるか。

プログラムの思考プロセス

米国の心理学者であるJoy Paul Guilfordは、発散的思考と収束的思考という概念を提唱しました。前者は与えられた条件から多種多様な発想を生み出すときの思考で、後者は論理的に唯一の適切な回答や解決に収斂して求めるときの思考です。この2つの思考は、問題解決のプロセスにとても重要な役割を果たしています。2004年に英国Design Councilが提唱したDouble Diamondは問題解決プロセスのフレームワークで、発散的・収束的思考の組み合わせをひし形(ダイアモンド)で表しています。レジリエント社会をつくるための事業立案プロセスを発散的・収束的思考を示すDouble Diamondになぞらえると、下図のように表すことができます。

図表3

プログラム趣旨

背景
世界的な災害データベースの1 つであるCenter for Research on the Epidemiology of Disasters(CRED)のEmergency Events Database によると、2022年の1年間で、世界中で387件の自然災害が発生し、3万人を超える命が奪われ、1億8千万人の人が被災しました。災害の程度は、その災害の種類や場所、政治、経済、技術、文化などのコミュニティの背景など、複数の要因によって異なってきます。多くの自然災害が深刻化し、それらの災害が複雑に相互作用していることから、リスク軽減や意思決定の戦略を統合的かつ多角的に検討することが必要となってきます。

日本は、その立地条件から、多くの甚大な地震、津波、台風、豪雨を経験してきました。特に、1995 年に発生した阪神・淡路大震災は、当時、第二次世界大戦後に発生した地震災害としては最大規模で、世界中に衝撃を与えました。その後、1996年からこれまでに日本で発生した人的被害を伴う地震は178に上り(2024年1月9日現在)、なかでも2004年の新潟県中越沖地震、2011 年の東北地方太平洋沖地震、2016年の熊本地震、2018年の北海道胆振東部地震による被害は甚大なものでした。そして、2024年元旦に能登半島地震が発生しました。また、地震だけでなく、2018 年の西日本豪雨や2019 年の令和元年東日本台風では、河川の氾濫や土砂崩れなどによって多くの人が犠牲になりました。さらに、2019年に発生した新型コロナウィルス感染症の世界的流行は、たくさんの死者を出しただけでなく、世界中の人たちの生活様式を大きく変えることになりました。
本プログラムの目指すもの
今、それぞれの災害発生から時が経ち、日本では同時に進むさまざまな復興プロセスやフェーズを観察することができます。神戸は、阪神・淡路大震災からの復興プロセスがすでに終了しており、その復興プロセスから「Build Back Better(より良い復興)」について長期的な検証ができます。また、東日本大震災により甚大な被害を受け、現在も復興に取り組む地域がある東北地方では、これまでの復興プロセスを振り返りながら、今後の復興方針を検討しています。本プログラムでは、過去の災害と復興プロセスについて学び、レジリエント社会の実現に向けたビジネスプランを立案するプロセスを通じて、創造的価値を生み出す事業を創出・持続できる人材の育成を目指します。

本プログラムは、JST START大学・エコシステム推進型 スタートアップ・エコシステム形成支援事業の一環で実施しました。また、神戸大学高等教育院未来世紀都市学研究アライアンスから支援をいただきました。
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